人と皮革の関わり方についての調査_File 01_皮革・鞣しとは

2025.12.12

Researchの概要

兵庫県たつの市で生まれたレザーバッグブランド「RETHAEL」の展示会を開催するにあたり、人と皮革の関わり方に関する調査を行った。

なぜ人は動物の皮の力を借りるのか、その力を借りるために何をしてきたのか。

この調査によって、人が皮革に触れたときの感覚をより豊かにし、この先の暮らしに役立てる。

 

まずは皮革とは何か、鞣し(なめし)とは何かを整理する。

 

To prepare for an exhibition of the leather bag brand “RETHAEL,” born in Tatsuno City, Hyogo Prefecture, we conducted research on the relationship between people and leather.

Why do people need the power of animal hides?

What have people done to harness this power?

This research aims to enrich the sensory experience of touching leather and apply these insights to future living.

First, we clarify what leather is and what tanning entails.

1. 皮革とは

皮革は動物の生皮と、鞣しを施した皮や毛皮を総称した言葉である。

食肉産業からの副産物を利用している。

2.皮革の特徴

(1) 吸放湿性が高い。靴の内部など多量の湿度を吸収する必要のある部分には天然皮革が適している。

(2) 水蒸気を吸収すると発熱する吸着熱にすぐれている。熱を発生し暖かく感じる。

(3) 比較的容易に成形可能。着用により靴が足に馴染んでくるのも革に適度な可塑性があるため。

(4) 湿気や乾燥によって寸法が変化する。湿度が高いと、革の寸法は長くなり、重量が増加する。乾燥状態ではこの逆。足や手から発生した水分を吸収して革が膨張することが、革がなじむ原因のひとつ。

※逆に、乾燥した作業所で作った鞄を湿気の多いところに保管しておくと波打ったり歪んだりする。

(5) 一般の繊維と比較して革は燃えにくい

(6) コラーゲンは肉と同様、熱に晒されると収縮して硬くなる。いったん変成した皮革は硬く、もろくなる。これは修復できない。

(7) 皮革を水に濡らしても、鞣し効果という基本的な面では問題ない。しかし水に濡らして乾燥すると収縮して硬くなる。

(8) 汚れ・湿気の多いものを保管しているとカビが発生しやすくなる。

(9) 皮革の染色堅ろう度は、繊維と比較してやや劣る。

(10)皮革は非常に微細な繊維から成り立っているため、汚れを吸着しやすい。起毛した革や銀付き革でもケバ立ったところは、微細な繊維が露出しているため汚れやすい。

3.鞣しとは

皮の主成分であるタンパク質(コラーゲン)を化学的に架橋し、構造を不可逆的に変化・安定化させ、革や毛皮にすること。

「皮」に耐腐敗性、耐熱性、柔軟性等が付与されて「革」になる。

 

 

主な鞣し方法

(1) クロム鞣し

塩基性硫酸クロム鞣剤で鞣された革のこと。クロム鞣剤と皮をドラムを回転しながら反応させる。鞣し時間が短く、経済性に優れている。柔軟性・弾力性・抗張性・耐熱性・染色性に優れ、軽い。鞣したあとの革の状態が青色で湿潤状態にあることからウェットブルーと呼ばれている。市場の80〜90%がこのクロム鞣しで製革されている。

1858年、ドイツのKnapp氏が発見。 18世紀半ばの産業革命による工業化により、庶民にも比較製品が普及していくなかで、ファッション業界には柔らかくて軽やかな皮革の需要が生まれていった。また軍需の増加もあった。 それまでの植物タンニン鞣しでは、耐久性に優れるものの硬く需要を満たせなかった。そもそも伝統的な植物タンニン鞣しでは1年以上時間がかかるものもあり、供給スピードをあげる必要があった。 そういった流れから、クロム鞣しが生まれていったといわれている。

(2) 植物タンニン鞣し

紀元前から続いている鞣し方法のひとつ。堅牢で摩耗に強く、伸びが小さく、可塑性が大きい。成型性は良いが、耐熱性は劣る。紀元前3000年頃から始まっており、紀元前400〜500年頃、古代ギリシャ人が水に浸した葉や特定の樹皮を用いて革を保存するなめし法を確立した。タンニンは動物の皮に含まれるコラーゲンタンパク質と結合し、これを覆うことで水溶性を低下させる。これにより皮が細菌に抵抗し、腐敗を防ぐ。

(3) 混合鞣し

2種類以上のなめし剤の特徴を生かし、用途毎に鞣したもの。たとえばクロム鞣しした後タンニン鞣しを行うことで、クロームとタンニンの長所を生かした革を作ることができる。

(4) ホルマリン鞣し

アルデヒド化合物による鞣し。耐アルカリ性の革ができるが、耐熱性は低い。純白革。

(5) 油鞣し

不飽和脂肪酸含有量の多い、菜種油の植物油や魚油などの動物油で鞣された革。一般的にはセーム革の鞣しのことを言う。柔軟で耐洗濯性があるが、機械的強度が弱い。姫路の白鞣しは、この油鞣しの一種。

4.歴史上行われてきた鞣し

□ 原始時代 乾燥が腐敗を防止する簡単な方法だが、それだけでは非常に硬く利用し難い。そのため、生皮の皮下組織や肉片、脂肪などの付着物を骨や角などを用いて除去し、さらに皮を湿気のある所に放置して、毛根部が緩み抜けやすくなったら、腐敗が進む前に脱毛。乾燥過程で、手で揉んだり、足で踏みつけたり、石や骨、棒で叩いたり擦ったりして柔らかくする

□ 皮を乾燥するために焚き火の近くで掛けておくと、皮が腐敗しにくくなり耐久性が生じることを知る。 それが燻煙鞣しの始まりといわれている。

□ 皮に付着していた脂肪分が多いと柔らかくなることや、燻し中に脂肪が皮に浸透していっそう柔らかくなることを経験的に知り、動物の油脂や魚の油、卵、動物の脳や肝臓を塗ってから処理するようになった。

□ 樹皮や実、葉などを用いる植物タンニン鞣しは燻煙鞣しや油鞣しよりは新しい。前3000年頃の新石器時代のオリエント(エジプトや西南アジア)にはじまる。オークやフィッヒテ、松、スマックの葉、ザクロの実、没食子(もっしょくし)、ミモザの実が用いられた。

□ ミョウバン鞣しも植物タンニン鞣しと同時代にはじまる。ホワイトタンニングと呼ばれた。ミョウバンが天然に存在する南ヨーロッパや小アジア、エジプトの沼地や泥炭地で発達。

□ 古代イスラエル(紀元前1500年頃)では、犬や豚の糞による発酵で、 コラーゲンタンパク質以外の成分を除去し、コラーゲン線維をほぐし、革の柔軟性や平滑性を高める。 ベーチング(酵解)という。

□ 古代エジプト人は白鞣し革は指甲花(ヘナン)やアルカンナを用いて赤色に、紅花を用いて黄色に、 インディゴを用いて青色に染色した。

□ 中世ヨーロッパでの植物タンニン鞣しでは皮を6〜12日間静置するか、薄い石灰液に長期間浸漬して毛根部を緩めてから脱毛。 槽または地中につくった穴に脱毛皮と樹皮破片を一緒にいれて静置し、タンニンが吸収されたら、 新しい槽に移す作業を繰り返す。 完全に鞣されるまでに18ヶ月以上かかる。 その後、樹皮破片が粉末化し槽に樹皮浸出液を注入することで濃度を高め、 15ヶ月まで短縮させた。 産業革命まで大きな発展はない。

□ 8世紀 スペインではムーア人が鞣し工程を改良し、革をより柔らかくより鮮やかな色にし、 革を室内装飾や装飾など、より幅広い製品に有用なものにした。 首都コルドバの名前にちなんだ「コードバン」革として何世紀にもわたって評価され続けている。

5.日本における鞣しの歴史

□ 『日本書紀』によれば、4世紀頃、高麗に工人派遣を依頼したところ、 皮革工匠の須流枳(するき)/ 奴流枳(ぬるき)らを連れて帰ってきた。 今、大和郡山に住む「熟皮高麗(かわおしのこま)」と呼ばれる人々はその子孫。

□ 『延喜式』によれば、 牛皮は脱毛 / 裏打ちし、水に浸してから日光に晒し、踏みほぐしてから柔らかくする。 皺文(ひきはだ)染革は樫の皮を採って、麹と塩を混ぜて染める。 鹿皮は毛の除去 / 裏打ちのあと、脳を擦り付けて揉み乾かし、さらに焼き柔らげて燻し染色する。 馬皮は油を振りかけ踏み揉んで鞣した。

脳漿鞣し(のうしょうなめし)

脳漿(牛馬・鹿などの脳を発酵させたもの)を湯に溶いた液の中で、干し上がった皮を踏み込んで浸透させて 十分に絞ってさらに乾燥させる。

□ 江戸時代中期『和漢三才図会』 革を柔らかくすることをなめす(奈女須)というとある。 稲藁の灰汁に米糠を混ぜて、少し温めてから、この液で革の表裏をよく揉み洗い、 これを竹ぐしで張って晒し、やや乾くのを待って竹べらで皮下組織を取る。

□ 毛根腐敗による毛抜きに関するいくつかの手法

  a. 樽・桶に水を入れ皮をつけて毛根を緩ませる(腐らせる)

  b. 毛を内側に折り込み発酵によって毛根を緩ませる

  c. 地面に穴を堀り皮を入れ、入れ物を埋め、蓋をして発酵させる。発汗なめし、室なめしなどと呼ばれる

  d. 河川などの流水にさらすことで毛根を緩ませる川漬け法。大量かつ安定的な処理が可能

  e. 麹や糠をペースト状態にし、それを毛付面に塗りつけてバクテリアで毛根分解を行う

  f. 桶樽に水と糠を入れて発酵を促進させて毛根を緩ませる。糠なめし

  g. 現在は、ほとんどが石灰溶液によって毛を溶かしてしまう方法

□ 江戸中期、第一に農耕牛馬の確実な拡大により、死牛馬数の増大で皮鞣しが転換期をむかえる。 武具・皮籠づくり程度では皮のほうが余りかねない。 さらに、元禄を過ぎもはや臨戦態勢が過去のものになった。 武具の需要が下降。原皮価格が停滞。その新たな皮の需要先が雪駄底皮・綱貫。 そのためにも民需にふさわしい柔軟な革作りが切実化される。

参考:

『かわとはきもの』 東京都立皮革技術センター

『皮革の歴史と民俗』のびしょうじ

日本タンナーズ協会ホームページ

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