ヒラマツグミは淡路島を拠点に活動する設計事務所です。
この土地の日常の中にある普遍的なもの、日常の事実をみつめて、人と自然の関係性の中で、そして自分自身や身近にいる人たちのために建築に関わっていたいと思っています。
私たちが今いるこの土地からおのずと立ち上がってくるような、建築本来のありようを探っています。
我々は日々机上で設計業務を行うだけではなく、山に入ってその土地に生えている植物や地質について調べたり、近くの山や庭でとれる季節ごとに変わる食材を調理してテーブルを囲んで一緒に時間を過ごしたりします。作家の手仕事の作品を手に取って眺め、職人たちと試作を積み重ね、時には自ら手を動かしてものづくりについて議論しあいます。建築にかかわるあらゆる物事を同じ屋根の下に置き、まるで生態系のように互いに影響しあえるような動的で複雑な総体であろうと考えています。異なった分野を横断し、頭の中だけで考えるのでなく、身体的に総合的に考えることでより自然と一体となった建築本来のありようを探っています。
HIRAMATSUGUMIには通奏低音のように我々の様々な取り組みを一貫して大切にしている言葉があります。然(ネン)という言葉です。然はひとことで明確な意味をしめす言葉ではありません。
しかり。そのとおり。そのまま。しからば。また、しかるに。ほかでもなく、そうなっている。まさにそのもののような状態や様子であること。自然。自ずから然らしむ。自ずからあるがままにあること、そのようにあること。
はじめから決められていることを受け入れることでもあり、その時々の状態に合わせて変わり続けることでもある。どこか矛盾を抱えて捉えどころのない、受け取る人によってその言葉が持つ意味、世界がどこまでもひろがるような言葉です。私たちが生きることを明確な言葉で示せないのと同じように、明確な答えがそこにあるのではなく、なにか問いのようなものが然には含まれています。それは我々がめざす建築やものづくりに向かう姿勢そのものであるような言葉です。
HIRAMATSUGUMIのロゴマークは3本と4本の線で構成されて円を描いています。
かつて人が木を伐る斧は「よき」と呼ばれ、必ず3本と4本の線が刻まれていました。3本の線は「ミキ」と呼び、お神酒を現し、4本の線は「ヨキ」と呼び、地水火風の四大を現したそうです。木を伐る前に3本と4本の線が刻み込まれた斧を木にたてかけ、感謝と許しを祈り木を伐っていたと言います。日常的に木を伐るという行為が自然に対する畏敬の念を深め、木を伐るための道具にその想いが刻み込まれています。今よりももっと自然が身近にあり、自然によって生かされていたその時代の道具に線を刻み込むという、この「よき」が示す考え方や行動が自然との関係性をよく表していると思います。然という曖昧な言葉を表すシンボルとして、この3本と4本の線がもつ力を借りようと思いました。
HIRAMATSUGUMIが作り出すあらゆるものに、この3本と4本の線を刻み込むことによって、人と自然との関係性のなかで、我々の立つ位置・姿勢を示し続けられるように。